人生のレールを外れた男の物語

社会の歯車から外れたらどうなるか、私の友人の実体験を元に、綴ろうかと思う。

3.仕事を覚える

仕事とは、楽なものも有るだろうが、基本的には大変であり、常に神経を使う事が多い。

 

彼のパティシエ人生の最初も、正に激動。

レストランのデザートの種類だけでも10種以上あるそれを覚えなくてはならない。

最初は、先輩が付いていて教えてくれるが、徐々に後輩にやらせる。

勿論、最終的には1人でこなさなくてはならない訳だから、先輩は見守る役目になる。

 

彼のイメージの中では、料理のドラマで、主人公が、丁寧に野菜や果物を切っている姿があったと言う。

勿論、ドラマの演出なのだが、現実では先輩に、

『おい、そんなにゆっくりやっていたら煽られるよ?』と言われた。

煽られる、とは、デザートの注文が重った時、ちんたらやっていたら提供が遅れる事を意味する。

かといって、彼は新人で、経験ゼロだ。

即戦力なハズも無い。

しかし、レストランでのデザートの盛り付け方は、先輩は1週間位しか教えてくれない。

逆に、1週間位で覚えなくてはならないらしい。

 

彼は、1週間で覚えられなかった。

その時に言われた先輩の言葉が、

『あのさぁ、いつになったら覚えられるの?俺なんかも1週間で覚えたよ?ホントに不器用でトロイね』

 

仕事の覚えるスピードは、どんな職種でも、人によって早ければ遅い人、マチマチであるハズ。

1週間の基準がわからないが、彼の会社では、それが当たり前だったよう。

他の先輩にも、お前は要領が悪いね、専門学校行ってたんでしょ?それでそんなレベル?余程その学校が酷いか、お前が酷いかだな、と言われ、随分ショックだったと言う。

 

結局、2週間して先輩が痺れを切らし、俺も違う仕事したいから、出来る事はやってね。無理そうなら内線で呼んでね、と言って、彼を1人にした。

 

これで、彼は、頼れる人がいなくなった。

文字通りの独り立ち。

真の地獄の幕開け。