4.新人の洗礼
レストランのコック、ウエイターは、全て男だ。そして、全員、若くて40歳代。50歳平均といった所か。
彼は新人で、未だ20歳。
当然、年の差があり過ぎる。
考えても見て欲しい。
初めてやる仕事を、1〜2週間で全て覚えられたら、誰だって苦労はしない。
当然の如く、彼はオーダーが来ても、1〜2品ならなんとか、しかし、複数重なると、もう無理、テンパってしまう。
そんな時、レストランの料理長は、他部署の新人とはいえ容赦ない。
『おいテメェ、何チンタラしてんだぁ?客を待たせてんじゃねぇ』
『おまぇさぁ、もっと綺麗に盛り付けられないのか?それやってお前さぁ、給料もらおうっておかしくないか?』
レストランのウエイター部も容赦ない。
『おまぇさぁ、こんな汚い盛り付けのを持って行けると思うか?』
『おまぇさぁ、このデザートいくらかわかってるのか?これ、お前ならカネ払って食べるのか?』
『お前がチンタラしてるせいで客を待たせてるんだぞ?それらって、俺らが客におこられるんだぞ?あぁ?ふざけんな?コラ?』
料理長、ウエイター陣の言う事は間違ってはいない。
ただ、言う相手を間違えてはいないか?
彼は後で振り返る。
普通、レストラン部とケーキ部があって、レストラン部の方へケーキ部の新人が入って来るのは兎も角、その面倒を見るのは、ケーキ部の方、すなわち、苦情言いたかったら、ケーキ部のケーキ部長に言うのが筋のハズ。
それを、新人に直接言って、効果あるハズないだろうと。
まぁ、料理長、ウエイター陣の苦情は、ケーキ部の上司の方へ伝わるが、ケーキ部の方でも責め苦をあう。
『おまぇのせいで、俺らがおこられるんだぞ?』
いゃさ、部下の失態は上司の責任じゃね?とは後で振り返るが、その時の彼は、三重苦の責め苦を味わっていた。
料理長、ウエイター陣に、会う度に、またお前か?今日は最悪だわ。他にいないんか?と、愚痴をこぼされる日々。
彼は、そんな責め苦にあいながら、3ヶ月経った辺りで、あまりの辛さに、とうとう耐え切れず辞めたくなったと言う。
しかし、彼は辞めなかった。
ある、特別な理由が有ったからだ。